町を歩けば必ず挨拶される「学校中で一番忙しい人」
山下晴美さん
アメリカ
「中学・高校と英語が大好きだったので、17歳の時に1ヵ月、ロサンゼルスに語学留学をしたことがあるんです。日本人が多くて会話はあまり上達はしなかったけれど、それでもまた外国に行きたい、行きたいとずっと思い続けてきました」
 卒業後に就職した会社では、1週間の休みがとれるたびに海外旅行へ出かけていた山下さん。やがてテレビでインターンの活動を知り、私がやりたいのはこれだッと確信して、応募した。
「選考試験には合格したものの、ずっと続けていた英会話は別として、私は日本語を教えた経験もありませんし、お茶もお花も着付けも日本の伝統文化はほとんど知らない。少しは勉強してから行こうと」
 出発予定は秋。その年の5月に会社を辞め、夏の間はインターンシップ・スタディセンターのカルチャー講座にも通って、日本文化を英語でどう表現するのか、先輩インターンや講師から授業のコツを教わったり、アドバイスをもらった。
「模擬授業もやらせてもらったので、実際に学校の教壇に立ったときに、それほどあわてませんでした」
 とはいえ、たった一人で見知らぬ土地に飛び込んでいくのだ。期待と不安を抱えながら、いよいよアメリカへ。ボストンから車で30分の町Methuen。「活動開始の日にいきなり全員の大集会があって、何かスピーチをと言われたんです。その頃はまだ慣れていないからあがってしまって、私はあまり英語が上手じゃないですとか何とか、しどろもどろで」
 何しろこの学校は、幼稚園から8年生まで特別なクラスも含め、1000人近くの生徒がいるマンモス校。そして山下さんは二人目のインターンだった。
「学校中に折り紙を飾って歓迎してくれていたので、これでは私が教えることはないのではと心配したんです。でも逆に子どもたちはとても楽しみに待っていたんだそうで、それがかえってやりやすかった」
 広大な学校の敷地には学年別に校舎が3ヵ所に分かれていて、全クラスに顔を出した山下さんはそのたびに校舎の間を走って移動。「学校中で一番忙しい人」という評判になった。
「最初は緊張していて、授業前にはいつも頭の中にプランを立て、バインダーにまとめたりしていたんですが、結局はシナリオ通りには行かず・・・・・・。3ヵ月たった頃には『今日はこれをやるからこれを配って』と決めるだけで、できるようになりました」
 準備はそれなりに大変だったが、例えば町で買い物していると、いつでも生徒から声をかけられる。すると一緒にいる親から「うちの子ときたら、あなたのことをしょっちゅう家で話しているのよ。いろいろ教えてくれてありがとう」と挨拶されるのだ。「そんな時は、ああ、やってきてよかった、やった甲斐があったって、本当にうれしいんです」
 滞在中のホストファミリーは2軒。1軒目の家族はクリスチャンで、山下さんも日曜日ごとの教会に同行。週末にはボストンにも連れていってもらった。
 2軒目の家族とは、すぐ隣のニューハンプシャー州へ旅行。夏は釣りに、冬はスキーにも行って、スノーモービルも乗りまわす。この家族とは特に仲良くなって、帰国後もメールのやり取りをしている。「学校での活動の最後の日にまた大集会があって、さすがにもうスピーチはちゃんとできるようになっていたんですが、今度は胸が詰まって、生徒の顔を見れば涙があふれてしまう。困りました」